講演会・シンポジウム
「どうすんねん?新教科『情報』」

 

平成13年12月1(土)
富士通・関西システムラボラトリ


 公開授業の締めくくりとして、12月1日に講演会とシンポジウムを開催しました。30名を超える参加者があり、新教科「情報」にたいする、みなさんの関心の高さがうかがえました。第1部では、これまでの公開授業をふりかえり、第2部のシンポジウムでは、研究者、教育センター、中学校の現場と、それぞれの立場からご意見をいただきました。第3部の講演では、金沢大学教育学部の黒上晴夫助教授から、情報科のポイント、総合との接点などについて、お話していただきました。参加されたみなさん、ありがとうございました。

 

第1部 「情報」関連授業公開キャラバンの足あと


 授業担当者による、これまでの公開授業のプレゼンテーションです。授業の記録ビデオ・PowePointのプレゼンテーションを活用して、実践の「ねらい」や、生徒の反応、公開授業に取り組まれての感想などを振り返っていただきました。

情報A「イギリス留学の報告書作成」 情報A「フリーソフトを利用したマルチメディア学習」 情報処理U「落下運動のシミュレーション」 英語選択「イントラネットを活用した個別学習」
四條畷学園高校・飯田英佳先生(数学・情報) 大阪薫英女学院高校・津田郁夫先生(理科・情報) 飛翔館高校・川崎初治先生(理科・情報) プール学院高校・Robert Jolly先生(英語)※発表は同プール学院の小池先生

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第2部 パネルディスカッション

 

司会:長尾 尚 先生(信愛女学院)

パネラー:黒上晴夫助教授(金沢大学教育学部)
今田晃一先生(大阪府教育センター指導主事)
鹿嶌三和子先生(聖母被昇天学院中学校 家庭科)


記録:関西大学大学院 稲垣忠

 パネルディスカッションでは、今後の展開の手がかりとするために、これまでの公開授業についてのコメント、府の動き、中学校「情報基礎」の現場から、それぞれお話をうかがいました。

公開授業についてのコメント(黒上・今田)

  • 飯田実践「イギリス留学の報告書作成
    • スキルと実践力のつながり(黒上)
      • 〔スキル〕:スキャナの操作・マルチメディア統合(レイアウト)の技法
      • 〔実践力〕: 写真と本文のマッチング・内容の吟味・ 色のバランス
      • Q(飯田):数学の教師にはデザインセンスのどこをどう見ていいのかわからない。
        ⇒(黒上):価値観は押し付けられない。「なぜ、そうデザインしたのか?」を説明する、考えるチャンスを保障することが大事なのでは。
    • 留学をきっかけにした「誰かに伝えたくなる」場面設定(今田)


  • 津田実践「フリーソフトを利用したマルチメディア学習
    • スキルと実践力のつながり(黒上)
      • 〔スキル〕:ソフトウェアのダウンロード・コピーペースト・HTMLタグ
      • 〔実践力〕:映像・アニメーションの仕組み・PCを利用した映像作成のメリット
    • アニメーションの作成そのものを楽しんでいた(今田)

  • 川崎実践「落下運動のシミュレーション
    • 教科における情報技術の利用と、情報教育の関係
    • 教科・情報・総合のクロスオーバー
    • エクセルの使い方 (スキル)と教科での意味(落下運動)のつなげ方。
    • 手順を述べたマニュアル式の教え方から意味を教えるへ・・・
    • ワープロ検定など、資格とからんだ情報活用の方向性(今田)

  • Jolly実践「イントラネットを活用した個別学習
    • 英語の教材づくり
    • 進度の自己コントロール
    • PC活用は、CAI→自己表現→コミュニケーション型と変化してきた。一方、基礎基本の徹底という観点から、個別に繰り返し学習できるCAIの見直しがおきている(今田)

小中学校とのつながり。ITとICT

  • 小中学校の家庭におけるインターネット、PCの劇的な普及。スキルは先生を超える子どもも出てくる一方、得意な子とそうでない子との間の差が大きくなってきている。(今田)
  • モラル・ネチケットについても、高校で今まで教えていたことを、今は中学で教えている。起こりうるトラブルは、高校でも中学でも同じようにおこる。それを中学で一度体験したあとは、高校ではやらなくなる・・・。(小林)
    • ← 人権教育と同じように、知識というより感覚・センスとしての情報モラル。発信者の立場になる経験が大事。それをまず学校内で練習する価値(今田)
  • 中学校技術家庭科の研究会では、 操作スキルはもう学習目標にはなってこないだろうという議論もされている。ITとICTのちがいを意識する必要がある。技術科で考えていたような情報は、すでに小学校の総合、教科で学習した生徒が入学してくる。技術科の独自性を選択の 「計測・制御」に見出せないか?⇒情報Bとのつながり(今田)

事例報告

  • ICTのCに注目した授業を実践している。問題を出し、Web上で情報検索して、正解を見つける。見つけた答えや調べ方を、メーリングリストで生徒間で共有してみた。 共有したい子もいれば、閉じこもってがんばる子もいる中で、 共有したい情報が届くのを見て、共有することの大事さに気づく子どもがでてくる(小林)。
  • 教科との連携の中で、使える可能性を模索している。中3を対象にした、調理実習とITの連携した選択授業を実施している。 グループごとの弁当づくりを目標とし、見た目、栄養の審査にITを活用した。家庭科の目的にあわせて使うことは分かる。しかし、情報というのを前面にだしたときに、何をイメージすればいいのか?(鹿嶌)
  • 松原市の小中連携した情報教育カリキュラムでは、操作についての丁寧な指導から、情報の発信・コミュニケーションを重視したカリキュラムに変化してきている(今田)
  • リアルタイムでスキー合宿の様子をWebにして父兄、他学年に報告。 Webの制作は生徒が担当する。リアルタイム性が大事。帰ってみればなんでもないことが、その場で伝えられる場面設定が、動機づけられる3〜4時間のスキル学習でできる。 一方で、このスキル学習の文脈づくりに、スキー合宿が活きてくる。 (今田)
    • ←修学旅行などの大きな体験、イベントの際に、発表させる場面を設定することが大事。発表をいやがらない子どもが増えてきたような印象をもっている。 (長尾)

評価の問題

  • ポートフォリオ評価(今田)
    • Webでポートフォリオがおすすめ。ネットワークを経由して簡単に一人一人の情報を引き出せる
    • フィードバック+フィードフォワード(前に進むための評価)学習の途中で投げかけるための評価。
  • 何を評価するか?(黒上)
    • もともともってる子どものスキルがちがうだけに難しい。
    • センター試験では、教育情報化コーディネータのようにPC持込もありうる。
    • 何を測るのか?スキルでも知識でもなく、現実の問題をどう解決できるか?を測る。

       


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第3部 講演 〜どうすんねん!新教科「情報」

金沢大学教育学部・黒上晴夫助教授

 講演を終えて。黒上先生からのコメント

 新教科「情報」のカリキュラムが動き出すまで,まだ1年あります。しかしその間に,「情報」を巡る世界は,今見えている様相とはまったく異なった状況になってしまうかもしれません。小学校や中学校,家庭でのインターネット活用が,急速に広がっている一方で,情報技術はまだまだ進化を止めていないからです。そうした激変する状況の中で変わらないことは,「考える」ことの重要性だろうと思います。

 「情報」の授業では,生徒たちが情報社会という鏡を通して,自分自身を見つめ直して,深く考えるようになって欲しいと思います。ノウ・ハウのあてがい方を考えるのではなくて,ノウ・ハウそのものを考え出す「思考力」を育てるための機会を,「情報」カリキュラムの学習活動の中に作っていくために,情報交換をしていきたいものです。


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参加者からの感想

アンケートの集計結果

 パネルディスカッションの際にご紹介した、公開授業の際にご協力いただいたアンケートの結果がまとまりました。情報科についての指導方法、悩みどころなどが、集計結果から見えてきます。ご協力ありがとうございました。

アンケートの質問用紙です。

集計結果です。

シンポジウムについて

 皆さんよくがんばっておられるなぁという感じです。本校はまだまだ何もできていないので学校間格差というか担当教員の熱心さの差というのかを感じました。まず環境の整備から手をつけなくては・・・と思っています。

 "情報"という教科はコンピュータを利用する上での心構えや決まりごとであり、各教科でコンピュータを利用することが大切なのかなと思いました。 各先生方の苦労した点は自分に役立てようと思いました。

 生徒に興味を持たせることが大切だと思った。僕も生徒としてパソコンの授業を受けてきたが、技術の授業はとても楽しくみんな興味を感じていたので、良い先生にあたったと思った。今回発表されたことは中学の時に全てやらせてもらった。どのように理解させるのか、楽しませるのか難しさを知った。(大学生)

 先生方が授業をやるうえで、どんなことに困っているのかよくわかりました。教科「情報」関連授業として各先生方がいろいろな切り口で取り組んでおられることに感心いたしました。特に川崎先生の報告の中に、情報を扱うため(学ぶため)に必要な基礎学力という点につきまして、中学校の教科書を出版している関係もあり、耳が痛い思いでした。

講演と総括について

 2003年度からの「情報」の実施にあたって不安があります。授業はこなせそうなのですが、評価をどうするか考えています。話の途中で評価は難しいと一言でしたが、これからそこがポイントになると思います。

 「情報」という言葉の概念が拡がってきて結局何でも情報教育だということになってしまうのか。私達はどこまで手を広げて対応しなければいけないのか・・・。教科情報で扱うこと(内容)について再度考えさせられた。

 2年後の情報の授業の展開の見通しがやはり立たず、今年度・来年度は特に小・中学校の取り組みを知っていきたいと思っています。又、評価のあり方についても検討したいと考えています。改めて、情報の意義を感じとることができました。

 「子供へは"ストーリー"をもたせ、意義をはっきりさせること」ということを聞いて、なるほどと思いました。

 アニメーションでは、カラーで音をつけて習ってきたのだが、白黒でも楽しそうにやっていたので興味づけには一番良いと思った。これからの情報コミュニケーション教育と他の教科とのつながりが大切。スキー学舎のリアルタイム発信はとてもおもしろいと思った。

 教科の中で、情報・総合のクロスオーバーが必要であると感じた。情報教育の本質について、深く掘りさげたご意見が多く、たいへん勉強になりました。 黒上先生の各実践に対するコメントが非常にわかりやすく、授業を見る視点を教えていただけた。

その他、全体的に

 自作の教材で、グループで調べ、発表(課題解決)を行おうと考えていますが、やはり評価の方法が課題だと考えています。

 やはり、人として生きていく力(問題解決力の育成)をどのようにつけていくか・・・という形で授業を進めたい。小学校〜高校へのつながり、学習内容の話が聞けて勉強になりました。

 情報について非常にわかりやすい解説であったと思います。とても役立つ情報でした。貴重な話有り難うございました。再来年からの情報教科の参考資料とさせていただきたいと思います。

 「情報」が教科の中での位置づけが明確になったと思う。実際の教科書をぜひ熟読したいと思う。

 授業公開に一度参加させてもらいたいと考えています。授業の参観+αの「+α」の部分に期待しています。 Ex 情報の評価やネットワークの構築、モラルの学習会、etc・・・(大高情でも、来年の体制を考えています。)

 今後すべき(取り組むべき)問題が具体化・明確化したことが大きな収穫となりました。社会科教員として情報科の先生と、あるいは、情報科の領域とクロスオーバーした実践にチャレンジしてみたいという思いを強くいたしました。ありがとうございました。

 トップダウンからネットワークの時代となり、このような研究会が機能していることに敬服いたします。情報交換している市町村ほど、それぞれ独自性が出ていることも大阪府でも顕著です。これからもいろいろと勉強させて下さい。ありがとうございました。


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