長尾:
例によって,授業者の先生から授業のねらいについてお話して頂きます。
齊尾:
どうすれば、小集団学習を高校レベルで実践できるのかに興味があった。学習開発研究所(代表:西之園晴夫先生)のチーム学習に出会ったことがきっかけとなりパッケージ化されている教材を利用できると思った。
本年でチーム学習を実施して2年目になる。昨年は、学習スキルを習得させることに取り組んできた。今年の授業担当は、週2日5時間のみで,コミュニケーションスキルの習得を目的に授業実践を行っている。昨年は、職員室に席があり、生徒の情報も入ってきたが、今年は、特別な部屋を使わせてもらっているので生徒の多様な情報を聞く機会が減ってしまっている。
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長尾:
全体の流れの中で、今日の授業の位置づけはどうなりますか?
齊尾:
2学期にチーム換えを行い,情報共有のためにブレスト(別紙)を取り入れた。ブレストとKJ法を中心に授業を展開してきた。人気書籍である『A型の取扱説明書』などを参考にした。
基本的な内容としては、『15分でできるチームビルディング・ゲーム(ディスカヴァー・トゥエンティワン社)』をカスタマイズして使用している。今時は,2学期のまとめで各チームが前に出てゲームを運営するといった形式での2回目の発表にあたる。
長尾:
チーム学習の特長には、どのようなことがあげられるのでしょうか。
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齊尾:
チームを編成する際には、まずコミュニケーション・タイプ調査を行う。(4つのタイプ:コントローラ・プロモータ・アナライザー・サポータ)これは多様性を体験するチーム活動を成立させる上での工夫となる。2学期にチーム換えを行った理由は,1学期間に人間関係が変化したためそれに対応した。
授業のねらいは、生徒同士がお互いに話をして考えることである。
どんな人とでもうまくやっていく力を育成することである。
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長尾:
他の学校では、コミュニケーション能力などに関して、現在の生徒の様子はいかがでしょうか。
小林(清教学園中高校):
勤務校の生徒の様子を見ているとコミュニケーションが十分に取れないと思える。
竹中(清教学園中高校):
生徒が生徒に質問することなどはない。生徒がしけている。今回の授業では、困った時にでも先生の方を見たりして助けを求めてないのがすごいと感じた。自分からほかの生徒に関わろう、加わろうとする態度を持っていることが素晴らしい。
辻(帝塚山学院泉ヶ丘高校):
本校も小林先生の学校の状況に近い。生徒は、しらけた感じがしている。
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松本(大阪学院大学高校):
本校の生徒は、むしろ大和田の生徒に近い気がする。ものおじすることなく、オープンに何でも言う生徒が多い。言い方は、きついかもしれないが。
米田(羽衣学園高校):
本校では,クラスの雰囲気や、担当者によって異なると思う。
齊尾:
学年の最初の頃は、前任校である清教学園の時よりも授業にならないひどい状態であった。でもそれが徐々に変化していった。
奥田(国際大和田・元校長):
大和田は授業、つまり担当者によって生徒の姿勢がまったく異なる。国語,社会などが受身的な受講態度が目立つ教科もある。習熟度別のクラス編成の影響もある。
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村上(国際大和田中学):
大和田の中学で教えているが、「総合的な学習の時間」は、生徒が授業を好きで選択して受講しているので,基本的に生徒は授業内容に関心を持っている。受講態度は授業のもって行き方によって変わる。
竹中:
生徒がマイクを使って発表しているが、それには抵抗感がないでしょうか。
齊尾:
生徒のもって生まれた個人差(声を出す大きさなど)が出ないように配慮してマイクを使うことにしている。マイクを使って授業をすることの説明を1学期にした。マイクでしゃべる練習も行った。休み時間にマイクを向けて音量の調整などをする。
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竹中:
例えばコンピュータの画面で見える色とプロジェクタで出力される色は違う。生徒は発表前にプロジェクタでスライドを投影して一度確認してからすると安心する。リハーサルすると保険になるので効果的である。
中村(京都コンピュータ学院):
これまでの経験から学生がPCの画面を見ずに、スクリーンに映し出されるスライドを見ながら説明するとよい。
林(保育園勤務):
学齢が若い方が,話すスキルについては、個人差は大きい。保育園では、園児の人数が少ないので目配りできる。子どもがみんなの前で発表する機会は意図的に増やすようにしている。幼稚園の指導要領にも共同的な学びの必要性が示されている。
奥田:
国際大和田の幼稚園の行事では、卒園する時に保護者の前で、一人で自分の夢を語る場面を作るようにしていた。その際の指導はかなりたいへんだということを聞いているが、とても大事なことだと思う。
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高瀬(帝塚山大学):
人とのコミュニケーションがうまくできない学生をどうするのかで困っている。最近の学生は、自分から働きかけてコミュニケーションを取らない。特に女子学生の場合には、似たものでグループを作ってしまい、それ以外の学生との付き合いはない。
平井(近畿大学付属中高校):
アスペルガーなどの生徒の場合には,周りの生徒が、その事情について知らない場合もあるので対応していくのは難しい。
奥田:
周囲の生徒が支援をして助けるのが非常によい。ただしこのことに対する親の理解こそが、最も重要だ。親がそのことを認めて受け入れている場合には、うまくいくケースが多い。
齊尾:
担任をしたクラスで発達障害の生徒の担当した経験から,何か底上げできる装置があると補助になる。コミュニケーションはトレーニングで改善する。生徒が、安心して授業に参加できる環境を作ることこそが大切。
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竹中:
そういう生徒が逃げ場を作ることも有効な場合がある。コミュニケーションは苦手でも、物事の理屈はよく理解している場合がある。それを明確に説明すれば、納得する。クラスメイトの協力によって十分対応できる。
奥田:
昔からそのような生徒がいたのであるが、最近は、医学の進歩で症状がわかるようになった部分もある。
長尾:
では、再びチーム学習の話題に戻りましょう。
齊尾:
多様な授業展開が可能であるというところが、チーム学習のよいところ。教材を事前に準備しているので目的を明確化しておける。今日のポイントは,人前で話すことを実際に体験することである。だから振り返りは,次回まとめるさせる。
長尾:
今日の授業に関してさらにご意見や感想があれば、出して下さい。
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齊尾:
ゲームアレンジ・シート,発表に使うものシート,台本を考えるシート,台本作り,役割分担確認表,スライドは9枚作るよう指示。スライド・チェックシートも作成している。わざと親しみ易いように手書きにしている。
村上:
素晴らしい資料なので、是非PDFの形で利用している資料をアップしてほしい。
竹中:
生徒は、これならできるだろうという思いがあったのか。
齊尾:
15分間逃げださずにできるかどうかが重要だと思っている。
竹中:
生徒は,指示されずに自分で動かなくてはならないことを不安だと思わないか。
齊尾:
コールベルなども用いた。1学期は,細かく指示書でやるべきことを明確にしていたが,徐々にそれを緩やかにしていく方策をとった。
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竹中:
他の教科では、そんなことをしていない。この授業で生徒が養った力が,他の教科に波及しているか。
齊尾:
していないと思う。
竹中:
教科の中に織り込むことを考えているか。
齊尾:
もともとこのチーム学習の授業で用いている工夫は、前任校での日本史の受験指導が先にあって、それを経て現在の授業がある。
奥田:
他教科への影響に関しては,京都女子中学校の事例をここで紹介してほしい。
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平田(京都女子中学):
数学の授業で,チーム形式で授業中に予習をさせる目的で取り入れている。「リサーチ」という特別な授業が設定されていて、その授業では,同じチーム編成を使って、別の教員が、授業を実施している。
この形態の授業をしているウェステリア・コースは,京都女子大学に進む10年一貫コースでありこれで特色を出そうとしている。
期末テストで、図形の証明の問題で実力問題を出題したが,今までなら白紙で出していた生徒が,何とかして解答を書くようになった。全く白紙という生徒がほとんどいなくなった。チームでやってきた成果かもしれない。今後、検証が必要である。
長尾:
やはり教室内での安心感に関係しているのではないか。つまりこれまで一斉学習方式では、いくら多人数の生徒が教室にいても、一人の生徒対先生という関係で授業が終始していた。
それを減らして、チームを作って生徒間で学びあえるようにしたことで安心感が生まれたのかもしれない。それも検証ができれば良いと思う。
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奥田:
京都女子の場合には、そのクラスにかかわる3名の先生が、仲良くチームになっているのが重要だと思われる。今の生徒は小学校の時から自分一人で勉強してきた。従来は社会に出ると違ってくるのだが。他の生徒の様子がわかることは重要である。本来子供が持っている能力をうまく出させている。
松本:
先生がやっていることを生徒が体験することで視点が変わったのか。
齊尾:
役割立場が変わると大変と認識して,視点のチェンジはあると思う。
空閑(京都女子中学):
本校では,生徒に求める人間像を教員チームでしっかりと共有している。来春オーストラリアの研修旅行に行って、現地で日本について説明できることを目標にやっている。
チーム学習を取り入れたことで、生徒たちは自分たちだけでもしっかり勉強できるようになったという印象を持っている。
奥田:
従来の先生は,スーパーマンでなくてはならなかった。それは大変である。だからもっと先生も役割分担をすべきである。つまり各先生の特長を活かして指導することが大切である。
教師というプロ集団の質をチームで高めればよい。斉尾先生が、フローチャートを作成して学習の流れを考えているのは、素晴らしい。企業では、当然であるが。
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伊美:
視点を変えて述べる意見を振り返りシートに入れたらどうでしょうか。
齊尾:
今回生徒が持ってきた原稿を校正していなかったので,できませんでした。本当は指導したかったのですが,時間切れでした。
長尾:
とにかく体験をさせることができれば、今回は、それでよいのか?
米田:
振り返りをどう考えさせるのか。ワールドカフェという取り組みがある。見知らぬ相手とのコミュニケーションを図って取り組む。ひとつのチームで取り組んだ後,その時間の中でチームを変えて,さらに元のチームに戻す。これで効果を上げている。 |
長尾:
今までの知識習得という教育目標を達成するために、チーム学習の手法を取り入れるのか、ということが何度か議論になった。
チーム学習をするねらいは、おそらく知識習得を効率的にさせることよりも、まずは生徒同士のコミュニケーションを通して、相手も認めたりすることが、第一である。
そのプロセスを経て、知識習得につながれば、それはそれで良いかもしれない。ただし時間は、かかる。
今後、様々な教科でもこのような取組が実践されることを期待している。
敬称略 |
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