ＩＴ化が進む韓国
「インターネットがなくては生活ができない」と語る元帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校教諭である李章柱氏の顔には１９年ぶりに帰国して見た祖国の変貌ぶりに対する誇りが感じられた。それはまた１９年も日本に住んでいたから「日本人ですよ」と語っていた言葉とは裏腹に、逆に、多くの韓国の人がライバル意識を抱いている日本から帰ってきたために、よけいに祖国への誇りを感じているのかも知れない。 　実際、韓国のＩＴを視察して日本に帰ってきた人々が、予想以上のＩＴ化に一様に驚くのだ。だから韓国のＩＴ状況を視察するために訪韓する人々や団体が増えているという。韓進観光のガイドの金恵善（キムヘソン）さんも、つい最近、韓国の行政組織のＩＴ化を視察する名古屋の市役所のグループを案内したという。時代の先を知るために１０年前にはアメリカに出かけたものだが、今や、韓国から学ぶ時代になったのだ。 　中東中学校の李校長（２０００年〜）は、同校におけるＩＴ教育の方向性を探るため、ヨーロッパや日本の学校（東京国際高校など）を視察したと語っていたが、今や立場は逆転してしまった。５年ほど前、新亭女子商業高等学校の事務局長（当時）のジン・ジョンウク氏は、先生方対象にコンピュータの研修会を開いても、参加する先生は少ないとこぼしていたが、正義女子高校のユン・ナムフン校長によれば、今では、コンピュータができて当たり前という雰囲気に変わってきているという。すべての学校の教員の机上にはデスクトップパソコンが置かれており、これがノートブックパソコンに変わる日も近いという。 　回線については、今回訪問した泳薫小学校、正義女子高校、中東中学、いずれもＥ１（２メガ）の専用回線。ただ、中東中学の場合は、１キロ離れた高等学校と６メガの無線で結ばれており、高等学校と回線を共有しているので、実際にはどの程度の通信が可能なのかわからなかったし、泳薫小学校の場合、実効速度が大変遅く感じられたが、これは併設する中学校や高等学校と回線を共有しているためかも知れない、今回はスムーズなアクセスができていた正義女子高校も２年前に訪問した時には、回線が遅く感じられたのも、併設する小学校や中学校と回線共有をしているためだと思われる。 　このような回線状況で、すべての教室にインターネットが入っていたとしても、ＥＤＵＮＥＴで提供されるマルチメディア教材が利用できるかは疑問である。実際には、ＡＤＳＬを使った家庭のブロードバンド回線を利用してＥＤＵＮＥＴを使っているケースの方が多いのではないかと思われる。 　高等学校などでは各教員がホームページを開設して、家庭や生徒と連絡をとるようになってきている。正義女子高校のキム・スンナム先生は、生徒が先生のホームページにアクセスして掲示板に書き込みをしてくれることを期待しているのだが、まだ、書き込みの数は多くないと語っていた。これは教師が尊敬されている韓国という国で可能で、公開掲示板を開設すれば、どんな誹謗中傷が書き込まれるかわからない日本の教育現場では、歓迎されないかも知れない。 　韓国では、２００２年度からすべての教科で少なくとも１０％はＩＴ（韓国ではＩＣＴとＩＴを正確に区別して使っている）を利用した教育を行うよう第７次教育改革審議会で定められたが、これが実現すればＥＤＵＮＥＴを利用する教員がさらに増えるものと思われる。 　２００２年度が終わるまでに、すべての教室にインターネット回線とプレゼンテーション機材が整備されることになっているが、正義女子高等学校でも、可動式の機材が置かれていた。 　実際の授業は、高等学校では、情報教育担当の授業を見ただけであるが、ここではHTMLを教えていた。ユン・ナンフン正義女子高校長によれば、ＩＣＴを使った次の教育の方向を今考えているところだという。この意味では、教育の中身は、まだ日本とそれほど大差がないといえるかも知れない。 　そこで、マルチメディア製作を主体とした教育に移っていくのではないかと私見を述べたところ、生徒によるビデオ製作などの作品製作は時間がかかりすぎるので、実際問題としては難しいと語っていた。恐らく、ＥＤＵＮＥＴを中心として上からのコンテンツ製作が進むこの国のＩＣＴ教育は、ウェブ上の教材を利用、あるいは、「消費」する方向に進むのではないか。大学入試を中心に動く教育環境では、大学入試に有効な教材が好まれて利用されていくように思われる。これは、自分で問題を見つけ、問題解決をさぐる日本の文部科学省の目指す教育と異なり、自分で問題を見つけるのではなく、与えられた問題に対する解決を目指す教育が想定され、インターネットは、そのために利用されるという方向に進むのではないかと思われる。		小学校のパソコン教室 小学生も学校見学には慣れたもの 教室の飾り付けも見ていて楽しい
男子中学校での授業	男子中学校での授業	男子中学校での授業
	Back