正義女子高等学校は韓国の中にあって、ソウル女子商業高校のようなICT先進校というわけではない。かといって、遅れているわけでもない。数年前までは商業課程を併設していたので、すべて文系進学課程になった今でも普通の学校よりは情報化が進んでいる。コンピュータ教室も3教室あり、今年度には、情報センター棟が新設される。
国際教育に理解が深く退職後の今も国際教育関連団体で仕事をしているという李大中前校長も、創設者の孫であるユン・ナムフン現校長も理科系出身者である。私が故郷の家プロジェクト(http://www.redslope-kip.com)のビデオ(韓国語ナレーション)を紹介しながら、教科書問題などについて話をした金在徳先生の授業は、ペンティアム4の最新式のパソコンが導入されたばかりのコンピュータ教室で行われ、ビデオのプロジェクターなどプレゼンテーション機材も、当然、完備していた。
校長室で通訳を交え、韓国の情報教育や教育システムについてユン・ナムフン校長の話を聞きながら、私の授業の前に、とりあえず、ICTの授業が見学できるものと思っていたのが、コンピュータ教室に案内されたとたん、「授業をはじめて」と促され、慌ててしまい、スムーズな授業展開ができなかった。特に、14分のビデオを見せたあと、今春卒業した私の生徒が、2000年10月の韓国研修旅行から帰国後、体育の授業時、日韓の過去と未来をテーマに発表した創作ダンスを見せることができなかったことも、響いた。リアルプレイヤーが入っていなかったのだ。
通常は、こんなこともあるかと考えて、日本からビデオを持ってくるのだが、あれこれ旅行の手配で、手が回らなかったこともある。まあ、もともと、授業がうまくないというのは、10年あまり前に出版された私の処女作「遊々パソコン通信術」でも書いたことだから、驚くことではないかも知れない。
ただ、今回の授業では、昨年、日韓関係を悪化させた「新しい歴史教科書」問題をとりあげ、ある程度、日本の状況を説明しておきたいと考えた。故郷の家プロジェクトで日本に招いた正義女子高校の生徒たちが、この問題について、話し合いたかったのに、その時間がなかったと感想を書いていたので、これに応えたかったのだ。
韓国との交流では、「政治」を抜きにすることは難しい。先に述べたようにテレクラスインターナショナルジャパン主催のAPEC高校生テレビ会議では、江藤元総務長官の発言がきっかけで、正義女子高校の参加が直前にキャンセルされた。1994年に国際科10期生を韓国研修旅行に引率したときは、「ソウルを火の海にする」という北朝鮮高官の「火の海」発言で、ソウル市内が買いだめに走るというパニックを呈したり、北の金日成主席の死去で韓半島が不安定な状況に陥っていた。(数年後、放送されたNHK特集では、94年当時、本気で北朝鮮を攻撃しようと考えていたアメリカを金泳三前大統領が体を張ってとめたと報道されていた)。
98年10月に訪韓したときは、IMF体制下で、正義女子高校の生徒から、多くの高校生が、制カバンに愛国旗のシールをはって、無駄遣いをしないことを誓っていると聞かされた。竹島(韓国では独島)の領有権問題が日韓の間に生じたとき、日本にやってきたキム・スンナム先生は、我々に会ったとたん、挨拶もそこそこに、独島(トクト)の問題をどう思うかと尋ねるということもあった。
98年にKDDソウル(当時)事務所とISDN回線で結んだテレビ会議では、自己紹介の中で、ある正義女子の生徒は、「私は、わが国、韓国を愛しています」と語って、私の生徒たちの間で、どよめきが起きた。これは、日韓の高校生の意識のギャップを示している。
このあたりの事情を考えて、教科書問題について「逃げずに」日本の状況を説明しようとしたのだが、HTMLを扱う情報教育の時間の一部を使わせていただいたためか、生徒側にも、心の準備がなかったのか、反応がなかった。教頭先生が「感激しました」と言って慰めていただいたが、私としては、不完全燃焼で授業を終えた。
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校庭では体育の授業が行われていました
韓国の情報教育や教育システムについて
ユン・ナムフン校長の話を聞く
左から情報主任・教頭先生・日本語の先生
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